今回のフィールドレビューは瀬尾が担当いたします。取り上げるのは、最近視聴した1990年5月13日放送のNNNドキュメント「海の挿話 日本最西端の親戚たち」(制作:テレビ長崎)についてです。
このドキュメンタリーは、長崎県五島列島の福江島の集落、間伏で伝統的な「クロウオ(メジナ)地引」という漁で生活する、とある一家親族の素朴な暮らしを描いています。
クロウオ地引は、山の中腹の見張り番の合図で漁師が駆け出し船に乗り、入江に入ってきた魚を網で囲い込み捕まえるという漁法です。このユニークで勇ましい漁には一瞬目が釘付けになりますが、映像全体を通して他に大きな事件が起きることはなく、波の音が時間の流れを忘れさせるかのように穏やかに響き渡るなかで、漁民たちは慎ましく生活しています。
しかし、この暮らしが営まれている間伏という日本最西端の穏やかな場所にも、時代との様々な結節点が見え隠れします。漁師たちの神への信仰からわかる最果てに流れ着いたキリスト教徒たちの痕跡、漁師の長が語る海を越えて向かった戦争の体験や、高度成長期の出稼ぎの経験。そして、海岸には大陸の言葉が書かれた漂流物とアジアの難民たち。この地域のこの時代の漁師たちの暮らし、そして彼らの周辺の様々な出来事を確かに包み込む海の存在をしみじみと感じることができました。
NNNドキュメントのドキュメンタリーには、人々のなんでもない暮らしが切り取られている良作があります。「海の挿話」もそのひとつだと思います。このドキュメンタリーは放送ライブラリーにも保存されているようです。気になった方は視聴してみてください。