今回のフィールドレビューは、博士課程の松本が担当します。近年、地域の記録や記憶をアーカイブする試み(コミュニティ・アーカイブ)が、全国各地において活発化してきています。
コミュニティ・アーカイブの取り組みは、大きくわかれて3つの主体によって進められています。まず、1)博物館や美術館といった専門的施設、つぎに、2)NPOや市民団体などの市民の力、そして最後に、3)大学といった研究・教育機関です。今回のフィールドレビューでは、それらの動向に関係する3つのトピックをご紹介します。
地域の記録と記憶をつなぐ
まず、大学が中心となった取り組みを、大阪市立大学の事例をとおしてご紹介します。
西成情報アーカイブとは、「西成地域に現存する歴史的価値・学術的価値のある資料を収集・整理・公開することによって、歴史の正確な理解と地域力の醸成、地域福祉、社会福祉研修・情報の提供につなげることを目的とした取り組みです。本事業が拠点となり、将来的には地域に点在しつつ連携するネットワーク型のコミュニティ・アーカイブ構想の試行事業」です(HPから一部抜粋)。
詳しくは、以下のサイトをご覧ください。
西成情報アーカイブ
地(知)の拠点 西成情報アーカイブ移転記念イベント「地域の記録と記憶をつなぐ」
滋賀の「くらし・わざ・ちえ」
次に、滋賀の任意団体による、草の根の取り組みをご紹介します。
おうみ映像ラボとは、「滋賀県内の有形無形の資源や文化を記録する映像の発掘・発信をしていく団体であり、取り組みの総称です。滋賀を題材にした『記録映像』の情報を収集し、古来より引き継がれてきた滋賀の美意識や技術や知恵、地域性・共同体のあり方について再認識する、世代をこえたコミュニティの場をつくっていく」取り組みを展開中です(パンフレットから抜粋)。
詳しくは、以下のサイトをご覧ください。
おうみ映像ラボ
ゾウのはな子を探しています
最後に、美術館の展覧会のために目下実施されている「期間限定」の取り組みをご紹介します。『カンバセーション_ピース:かたちを(た)もたない記録』は、小西紀行(画家/1980-)とAHA!(アーカイブづくり/2005から活動開始)の両者の取り組みをとおして、「記憶/記録のかたちやありか」を考える武蔵野市立吉祥寺美術館が主催する展覧会です。その関連企画として、【井の頭自然文化園のゾウの「はな子」とご一緒に写るご家族の写真】を市民から募集し、展示作品の一部として使用するという、AHA!の試みがあります。
(撮影者にご提供いただいた写真 昭和43年9月)
詳しくは、以下のサイトをご覧ください。
ゾウのはな子をさがしています!
『カンバセーション_ピース:かたちを(た)もたない記録』
以上、3つの事例をご紹介しました。大学、市民の力、博物館(美術館)。特性や目的、役割や規模がまったく違うなかで、さまざまなかたちで展開されている「コミュニティ・アーカイブ」という実践の有り様がみてとれると思います。
大学、市民の力、博物館が主体となった取り組みは、お互いにお互いを排除するものではありません、むしろ相互に連携することによって、それぞれの主体の長所が引き出され、短所が補完されます。その結果、非常に弾力的でセンシブルなアーカイブが構築できる可能性を秘めています。魅力的で利用価値の高いアーカイブをつくるためには、これらの立場が異なる3つの主体が連携することが非常に重要だと考えられます。コミュニティ・アーカイブの実践によって、私たちはいったいどんな恩恵を享受することができるのでしょうか。また、地域の記録や記憶をアーカイブしていくことによって形成される社会性や公共圏とは、いったいどのようなものでしょうか。ひきつづき、注目していきたいと思います。