こんにちは。今回のフィールドレビューは、修士課程1年の森田が担当いたします。入学してはや3ヶ月、あっという間に前期が終わり、夏休みとなりました。今年は戦後70年という節目の年で、テレビや映画の特集企画も増えそうです。
私は日本のドキュメンタリー映画がとても好きで、土本典昭、小川紳介、原一男といった作家に代表されるような、独特のスタイルを持つ日本のドキュメンタリーの表現がどのような変遷をたどってきたのか、歴史を遡りながら考察していきたいと思っています。修士論文では、戦前期に活動していた芸術映画社という製作プロダクションに注目し、現存する資料を活用して分析したいと考えています。
この芸術映画社の現存する代表作の一つに、『空の少年兵』という1941年の作品があります。戦時下に、海軍飛行予科練習生というパイロットの卵たちの訓練生活を記録したドキュメンタリー映画です。海軍省がスポンサーについた国策映画ですが、単純なプロパガンダ以上の魅力を持った作品として知られています。「地上訓練篇」と「雄飛篇」の二部構成となっており、少年達の入隊から訓練、勉強、そして空へ飛び立つまでを追っていますが、一番の見どころは後半の飛行シーンです。
ある一人の少年にフォーカスしたカメラは、その少年が実際に飛行機を操縦する姿を臨場感たっぷりに、見事な空中撮影で捉えています。飛行中の少年の顔のクローズアップは、まるで合成映像かと思ってしまうほど巧みに撮られていますが、この作品の演出兼撮影をつとめた井上莞というカメラマンのアクロバティックな技術によって実現したシーンであると言われています。
この突出したカメラワークによって、この作品は教条的なプロパガンダという印象を与えず、空を飛ぶという体験のワクワク感や、少年達の胸の高鳴りを力強く伝えるものとなっています。その実験的な映像表現は特筆に値し、当時の日本のドキュメンタリー映画の表現方法を新たに開拓した一作であると言えます。
しかし、それだからこそ、この映画は多くの少年達の心をつかみ、海軍飛行予科練習生の志願者の増加に貢献しました。そして、彼らは戦争末期に特攻隊として突撃させられました。結果的に、この作品は戦争協力映画として責められるべきなのでしょうか?それとも、社会背景とは切り離して、映像表現として評価されるべきなのでしょうか?
この問題に対する答えは、簡単に出るものではないと私は思います。ただ、戦時期のドキュメンタリー映画=戦争プロパガンダ、という枠組みに閉じ込めてしまうのではなく、当時の映画界の状況や、実際の製作方法などに目を向けてみることで、ドキュメンタリー映画をめぐるさまざまな側面を見つけたい、と考えています。
この夏は、戦争に関するテレビや映画のドキュメンタリーを、新旧問わず意識的に見ていきたいと思います。みなさんもぜひ、この機会に見てみてください。