今回のフィールドレビューでは、博士課程の瀬尾が話題の原発ルポ漫画をご紹介致します。
大学院ではそろそろ夏学期が終盤にさしかかり、次第に本年度の入試も本格化し始めています。丹羽研究室では6月に研究室説明会を開催したので、私たち丹羽研の院生は入学希望の方々とお会いする機会がありました。学際情報学府の入学を考えている皆さん、暑さに負けずに頑張って下さい!
さて、前置きが長くなりましたが、今回は『いちえふ』(講談社)の話をしたいと思います。これは事故後の福島第一原子力発電所での労働記を下請けの作業員が描いたルポ漫画で、少し前にNHKの『クローズアップ現代』(2014年6月2日放送)で取り上げられました。他にも色々な記事、番組で話題になったので、ご存知の方も多いかと思います。
「いちえふ(1F)」とは、福島第一原子力発電所の通称で、作業員や地元住民など現地の人々はこの言葉を使っているのだそうです。つまり、この漫画は現地を自分の目で見てきた実体験から、福島第一原発の内部の様子を克明に伝えようとしています。
私は漫画というメディアにあまり親しみがなく、ルポ漫画というものには今回初めて触れたのですが、正直に言って漫画の割に文字が多くて読みにくい(見にくい)な…というのが、最初にもった率直な感想でした。
しかし、どんなメディアもまだ視覚化することができていない原発作業の現場を、具体的に、しかも作業員としての生活から見せてくれるということの説得力はとても大きいものでした。
先にあげた番組では「美味しんぼ騒動」を例に、風評被害・偏見と表現のコントロールという点が問題化され、『いちえふ』での原発に関する表現においても、漫画家の作家性と編集者の客観性の模索があると述べられています。漫画で原発を描くという手探りの作業が、福島原発事故後にどのように行われ、今後どのように展開されていくのか。『いちえふ』を実際に読んで、とても興味深い課題であると感じました。