櫻井よしこ『迷わない。』

修士課程の瀬尾です。今回のフィールドレビューは、最近読んだ新書のお話をしたいと思います。

ご紹介するのは、櫻井よしこさんの『迷わない。』(2013年、文藝春秋)です。櫻井さんといえば、日本テレビ系列のニュース番組『きょうの出来事』のメインキャスターを1980年から96年まで務めた女性ジャーナリストとして著名な方です。2007年にはシンクタンク「国家基本問題研究所」を創設し、理事長に就任されました。

本書は、櫻井さん自身の人生を振り返りながら、ジャーナリストとして、1人の女性として培ってきた考え方や哲学がまとめられたものです。その第2章「『皆様、こんばんは』の16年——『テレビ』とは」では、活字メディアのフリー記者からテレビメディアに転身した経緯やキャスターとしての経験などが語られています。

『きょうの出来事』は、テレビ放送開始当初の1954年から2006年にわたって放送されていた日テレの深夜の顔ともいうべき番組です。私は、櫻井さんが実際にこの番組に出ていた頃を、残念ながらあまり拝見したことがありませんが、この深夜帯のニュース番組に女性キャスターがメインに起用されたことは、当時は非常に画期的なことだったようです。

櫻井さんは、ご自身のことを「笑っていいとも!」ですら見たことのない非テレビ的人間であると仰っています。しかし、「日本のバーバラ・ウォルターズに」という言葉に強く惹かれて入ったテレビ報道の世界では、多くのことを学んだのだといいます。

面白かったのが、元フジテレビアナウンサーで女性キャスターの草分け的な存在である田丸美寿々さんとの対談で、「櫻井さんの番組を見ていると、私の心臓がおかしくなる」と言われたというくだり。櫻井さんの独特の間合いやゆっくりとした話し方に、田丸さんは気を揉んでいたのだそうです。ただ、櫻井さんは、自身の話に視聴者や話し相手を引き込むための独自の考えをお持ちになっていったようで、櫻井さん時代のこの番組をぜひとも拝見してみたくなりました。

また、当時のライバル番組である久米宏さんの『ニュースステーション』(テレビ朝日)、筑紫哲也さんの『NEWS23』(TBS)の存在への言及も大変興味深く思いました。テレビの見せ方が上手い久米さんと、キャスター個人の発言が冴え渡った筑紫さんの、三者三様の報道スタイルと視聴率の3番組の比較から、櫻井さんは「総合的には、私はお二人に勝てた」とはっきりと述べています。これには自分の報道スタイルへの自信が感じられました。

想像になってしまいますが、最近の深夜帯のニュース番組と櫻井さん時代のニュース番組のスタイルは、かなり違うものになってきているのかもしれません。いや、久米宏さんの見せ方を重視するスタイルが、日本のテレビ報道に確立した結果とも言えるのかもしれません。

しかし、見せ方を重視するということは、裏返せば良い映像がなければ報道できないということにもなり、それが結果的にテレビメディアに限界を設けてしまう可能性もあるということが、本書の中では指摘されています。

現代のテレビ報道には、この櫻井よしこさんの経験や言葉から学ぶことが大いにあるのではないか、そして、わたし自身にも、テレビ報道をどう見るのかという点において学ぶことが大いにあるのだということを考えさせられました。