みなさん、こんにちは!今回のフィールドレビューは博士課程の松井英光が担当させて頂きます。さて、昨今、テレビ局でも「Corporate Social Responsibility=CSR」と呼ばれる、企業の社会的責任を問う姿勢が顕在化しており、民放各局にもこの動きに対応する部署が主に広報局の中の部署として誕生しています。
そもそも、良質な番組を継続的に放送していく事が、社会貢献に直結しています。しかし、目に見える視聴者への実質的なサービスも不可欠であり、テレビ朝日では社員を学校に派遣して講義をさせる「出前授業」、会社のホールに視聴者を招いて社員が個々の仕事内容を説明する「テレビ塾」などがメディアリテラシー教育の一環として、現在は定期的イベントとなり開催されています。
昨年の12月11日に、この「テレビ塾」を私が担当する事となり、29回目のテーマとして、「テレビ局が仕掛ける新たな仕事」を統括するコンテンツビジネスセンターの特集を選択しました。イベントでは、コンテンツビジネスセンターが手掛ける、アクセス1億件を超えた『ロンドンハーツネットムービー』、大ブレイクした「ももいろクローバーZ」のヒット直前の映像など、人気コンテンツ制作の舞台裏を紹介し、「テレビ局が仕掛ける最も新しいフィールド」を担当するコンテンツビジネスセンターの仕事を分かりやすく解説しました。今回は、103人の観客を集めたこの「テレビ塾」の様子をレポートします。
2006年11月にスタートし、今回で29回目を迎える「テレビ塾」ですが、当初はテレビ局の仕組みや番組制作の流れをより深く知ってもらうと同時に、テレビ朝日のブランドイメージを高め、さらに番組宣伝も行う目的でスタートしました。これまで、報道やドラマなど多様なテレビ局の仕事をテーマに「視聴者参加型イベント」を実施してきましたが、今回は、放送外収入の多くを手掛け、テレビ局の将来像を示唆するユニークな部署の仕事を、インターネットテレビ「テレ朝動画」の展開を中心に講師が解説しました。
講義ではまず、テレビ朝日におけるコンテンツビジネスの定義や歴史などを説明し、実際に番組と連動して開発した「相棒パン」などの商品も紹介しました。番組関連商品をヒットさせる方法により、結果的にファンを拡大し、宣伝とビジネスの両立が可能になるとの事でした。
次に、2009年にスタートした動画配信システムである「テレ朝動画」の概要を説明し、「有料・無料・オリジナルを複合した動画サイトはテレビ局ではテレ朝動画が唯一」という特徴を強調。「権利処理」の簡素化に加え、通信回線などのハードの進化により、一般への浸透性を深めたことにより、放送番組の動画配信への環境が整備され、最近ではアーカイブ配信のみならず、ネット向け「オリジナルコンテンツ」が人気を博しているようです。
やはり、「テレ朝動画」を「地上波・BS・CSに次ぐテレビ朝日第4のメディア」に成長させるには、「定期的で旬なオリジナルコンテンツ更新」が望まれ、テレビ朝日の地上波コンテンツのみに依存しない、ネットオリジナルのレギュラー番組の制作による「脱レンタルビデオ化」が不可欠となっています。
そして、「テレ朝動画」初の看板オリジナル番組となったのが、アイドルグループ「ももいろクローバーZ」の初冠番組となった『ももクロChan』でした。この番組は、当時メンバーであった早見あかりの「ももクロ脱退」の瞬間を追い、突然メンバーに話すシーンをドキュメンタリーで緊急配信した事をきっかけに、ヒット番組となっていきます。その後、ただ一つの番組にとどまらず、「ももいろクローバーZ」自身の人気に火が付き、同時に「テレ朝動画」自体の認知度も格段アップすることにも成功。地上波とは異なり、放送枠と尺に縛られないネットの世界で、「撮ったものをすぐ出せる、地上波にはないスピード感」で勝負して、看板オリジナル番組に化けていったのでした。
この有料ネット・アイドル番組の成功の4条件として、講師のプロデューサーは「ファンの勢いがあるかどうか」、「可能な限りカメラを密着させ、裏側を収録できるか」、「アイドルの育成方針・目標が明確かどうか」、「しばらく赤字でも我慢できるかどうか」を挙げ、「望まれているものは、まさにリアルドキュメントで、続きがあるものです」と説明しました。
更に、『ももクロChan』で、「テレ朝動画」 のメディア化に向けて、一つのきっかけを掴むことに成功し、このノウハウをバラエティーに発展できないかと考えていたところ、地上波放送『ロンドンハーツ』のプロデューサーから、ある提案がありました。
「昔の尖った企画をネットでやれないか?」
「テレビマンが本気で作ると、ネット向けにも面白い番組ができる」という信念が、地上波人気番組の、ネットへの登場のきっかけとなり『ロンドンハーツネットムービー』を誕生させました。その後、番組は累計一億回再生数を突破するヒットコンテンツへ。
この『ロンドンハーツネットムービー』成功の裏側にも、成功への条件が存在し、それは、「ファイルを見やすいサイズに分割・”ヒキ”よりも”ヨリ”の映像」、「次が見たくなる構成・ドキドキ、ハラハラする構成」の2点でした。結果として、一億回越えという「尋常じゃない再生回数」を生み、地上波『ロンドンハーツ』の「最強の番組宣伝ツール」となり、ひいては「最強のテレ朝動画宣伝ツール」にもなりました。
ここまで「テレ朝動画」の道のりは試行錯誤もあったようですが、「考え方として、今のビジネスは失敗を検証する時間があれば、新しいことをやれという時代。少ないスタッフで10も20も同時に企画を走らせている中、反省して立ち止まっている時間があれば、次の事にチャレンジしていくべき」と講師は語りました。そして、「テレビ局というコンテンツ制作能力の高い会社で、新しいメディアを立ち上げる事に可能性を感じる。現在は、自分のアイデアを、ネットで世界中に発信でき、新しいコンテンツを創造できる、夢のある時代である」とした上で、「一方で、地上波を取り巻く環境が変化し、昔だったらできたバラエティー企画もやりにくくなってきている。その中で、今までテレビ局として55年間かけて築いた番組制作のノウハウを、違った形で生かせる場所が、新しいメディアの中にはたくさんある。そういう意味でもチャレンジしたいし、やりがいもある」と今後の方向性を示唆しています。
このように、「テレビ塾」では、視聴者との接点を増やし、「スペクタクルな出会い」を創造することを目指していますが、視聴者と信頼関係を構築することは、今後ますます重要な課題となってきます。この「テレビ塾」は、アカデミズムとの接点も含めて、絆をつくる多面的な出会いの場として、今後とも興味深いテーマを提示していけたらと考えています。
次回の「第30回テレビ塾」は、「放送統括部の仕事~絶対に欠かせない最後の砦、「番組スタンバイ」とは!?~」をテーマに3月18日月曜日に開催予定ですので、是非、大学院の学生の皆様も、テレビ朝日ホームページでご応募下さい!