今回のフィールドレビューは、博士課程の瀬尾が担当致します。テーマは、先日立ち寄った絵画展についてです。
普段、絵画などを眺める機会の少ない私が12月初めの夕暮れ時に思い立って訪れたのは、「公益財団法人佐藤国際文化育英財団・佐藤美術館」という小さな展示室が3つほどあるギャラリーでした。千駄ヶ谷駅から徒歩5分ほど、新宿御苑正門に程近い所にひっそりと存在するこのギャラリーでは、今、「狩野宏明展 記憶の劇場」が催されています。
狩野宏明氏は1983年に山形で生まれ、筑波大学大学院で芸術学の博士号を取得後、2010年から2012年にかけて文化庁新進芸術家海外研究制度によりイタリアのフィレンツェに滞在、現在は奈良教育大学で准教授をなさっています。この美術展では、彼が学生時代から現在までに山形・筑波・フィレンツェ・奈良で描いてきた油絵作品や写真、ドローイングなどを楽しむことができます(ご本人が作品の写真撮影とその画像の拡散を許可しているので、以下では一部を掲載させて頂きます)。
《ルート検索》 2013年
私がなぜ、この「狩野宏明展」を訪れたのかというと、彼自身が展覧会のチラシに寄せたこのコメントに興味を引かれたからでした。
都市環境、自然環境、体内環境、ネットワーク環境。これらの環境にあふれる様々な「もの」の持つ膨大な情報量は、常に私を魅了し、圧倒します。なぜなら、それらの「もの」は、普段は隠れていて目に見えない世界の構造や物語を豊かに想起させるからです。
狩野宏明氏は、自身の目で見た木々の緑やちょっとした風景、動物、臓器、機械、あるいはゴミ捨て場など様々な「もの」のイメージを組み合わせて、「自身が生きている世界の事象を想起するための『記憶の劇場』」を描こうとしています。その絵画は、彼自身の好きなものを集めた雑多なおもちゃ箱の中が描かれているようで一見すると「よくわからない」のですが、しかし、その中から何かメッセージを読み取ってしまいたくなる魅力も感じさせられます。
《Welcome to the task》 2014年
ともすると多すぎる情報に埋もれて、目を閉じ、耳を塞いでしまいたくなる現在社会ですが、もう一度情報を楽しんでみよう、自身が生きている世界の構造や物語を楽しんでみよう、という心を私はこの展覧会で教えてもらった気がしました。12月20日までと会期が残りわずかですが、千駄ヶ谷の他に銀座でも同時開催しているようなので、ご興味がある方は一度訪れてみてはいかがでしょうか。