2012年7月20日(金)、東京大学本郷キャンパス工学部2号館にて、テレビアーカイブ・プロジェクト第7回「みんなでテレビを見る会」が開催されました。第7回のテーマは「地域発ドラマの挑戦」です。
近年、多くの地域発ドラマが制作され、高い評価を受けている意味とは何なのか。地域からテレビを見つめることの可能性を、みんなで議論しました。
今回上映したのは、2009年に北海道テレビ放送で制作された『ミエルヒ』です。このドラマは、文化庁芸術祭優秀賞、ギャラクシー賞テレビ部門優秀賞など、数々の賞を総なめにしました。物語は、江別町・石狩川でヤツメウナギ漁をする父親(泉谷しげる)と10年ぶりに帰郷した息子(安田顕)、そして父親の再婚相手(風吹ジュン)が織りなす「家族」の生活を中心に、地方に住むことの意味が描かれています。
上映後、このドラマの演出を担当した藤村忠寿さん(北海道テレビ放送)をお招きして、お話を伺いました。ふつうの地域発ドラマは”みんな頑張って行こうぜ”というような観光的な側面が強いのに対して、このドラマではあえて”みんな他に行くところがないんだよ”という過疎の現状を肯定するスタイルをとった、と藤村さんは言います。そこには、地元のテレビ局カメラマンが撮る北海道は、『北の国から』が見せたような美しい富良野の風景ではなく、地元の住民さえ気が付かないような江別の何気ない風景であるべきだという思いが込められていたそうです。
首都圏にいる私たちは地域発ドラマと聞くと、つい「街おこしのためのドラマ」と連想してしまいがちです。けれども藤村さんの考える地域発ドラマは違っていて、「キー局が作りたくても作れないようなドラマ」、「どこにでも通用するようなドラマ」のことだと言います。そのために『ミエルヒ』で採られたのは、脚本に合わせたキャストを組んで、テレビドラマではほとんど使われることのない高性能のカメラを使用することでした。自由なドラマ作りを目指し、作品としての普遍性を第一に考える藤村さんの姿勢は、既存のキー局中心の構図からはみ出た、新しいテレビ・ネットワークの姿を示しているように感じました。
今回、とくに藤村さんのお話しを伺っていて印象的だったのが、「番組の制作中、どれだけ自分が楽しめるかを考えている」という藤村さんの発言でした。いままでの北海道テレビ放送のドラマスタッフは、ドラマ制作はきついきついと嘆いていたそうです。けれども、藤村さんはきついと考えるのではなく、どうやったら自分たちが楽しめるのかを考える。つまり、「脚本ではどんな物語が出来るんだろう」とか、「この役者さんの演技を見てみたい」というように、制作スタッフたち自身が楽しむことを心がけるそうです。ここに、あの怪物バラエティ『水曜どうでしょう』と同じ制作の源流を確認できたようか気がしました。
当日は、50名を超える参加者が集まりました。ディスカッションでは、「藤村さんだったら東京をどのように撮るか」といった質問や「いまのキー局のドラマやバラエティをどう思うか」といった質問が飛び交い、大盛況をおさめました。その後の懇親会も含めて、みんなが藤村さんの笑いの渦に巻き込まれる一日となりました。藤村さん、ご来場いただいた方々、ありがとうございました。なお、藤村さんの次回作のドラマ撮影が8月中旬からスタートするそうです。タイトルは『幸せハッピー』。こちらも期待したいですね!
次回8月の「みんテレ」は夏休みのため、お休みします。9月以降につきましては、現在、面白いテーマを企画中です。決まり次第HPでもお知らせいたしますので、こちらも合わせてご期待ください!