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「ネットワーク」から見るアメリカの放送史

作者: Ito Shuji | 2011年12月28日Posted in: フィールドレビュー

ブックレビューの第2回は、私、伊東秀爾が担当します。私がレビューの対象として取り上げたのは、デイヴィッド・マーク(David Marc)、 ロバート・J・トンプソン(Robert J. Thompson)の2氏の共著であるTELEVISION IN THE ANTENNA AGE - A Concise History -(Blackwell Publishing,2005)です。

著者の2人はいずれも、シラキュース大学(アメリカ・ニューヨーク州)に設置されている、通称「ニューハウス・スクール(S.I. Newhouse School of Public Communications)」に在籍する教員です。ニューハウス・スクールは1934年に創立した全米でも屈指のジャーナリズム・スクールで、アメリカの主要なマスコミ企業に多くの人材を輩出しています。

マーク氏の研究対象は基本的にアメリカ国内における映画史やテレビ史で、文化とメディアとの関連という観点から捉えています。一方トンプソン氏は、大衆文化研究を専門とし、メディア批評家としても活動しています。テレビ関連の著書も複数あり、そのテーマはテレビ番組のテクスト分析、番組制作過程の研究など多岐にわたっています。

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本書は、19世紀半ばの電信技術の発明と実用化に始まり、1920年代のラジオ放送の普及を経て1940年代に本格的なテレビ放送が開始、やがてマスメディアの中心を占める存在に発展していくまでの過程を、かつての当事者達の証言も交えて、技術史と文化史の観点から捉えています。分量は130ページ程度と少なめで、A Concise Historyという副題の通り、入門書的な内容でまとめられています。

構成は全部で8章(1.No Small Potatoes、2.A Downstream Medium、3.A Burning Bush、4. Starting and Screening、5.Corruption and Plateau、6.Dull as Paint and Just as Colorful、7.A Myth is as Good as a Smile、8. Oligopoly Lost and Found)から成り、1~3は電信の発明からラジオの全盛期まで、4~5はテレビ放送の黎明期から全盛期(その中での放送内容の退廃や発展の伸び悩みなどに言及)まで、6~7はテレビがマスメディアの主流を占めた後に社会との間で様々な批判や規制にさらされていく過程を取り上げ、8で筆者の結論が述べられています。

のレビューでは、本書の中で「放送ネットワーク」というキーワードに合致する部分にについて特に取り上げてレビューをまとめましたが、第1章冒頭の、かつて(19世紀半ば頃まで)情報というものは、収穫されたジャガイモと同じようなもので、収穫された作物、あるいは石炭と同じように、事件等に関する情報もまた人・伝書鳩・馬・船・鉄道などによって直接運ばれなければ伝わらず、現在では全く別個の存在のようになっているCommunicationとTransportationのネットワークは同一に等しかった(これを分離したのが電信の発明)という語りには、盲点を突かれたような思いがしました。

テレビネットワークを研究したいとは言ったものの、テレビのことだけを調べ、知るということでは全く不十分であるのだということを、今回のレビューを通じて痛感しました。また、一概に「メディア」とはいったものの、それは電信以来の連続性を有しているばかりか、さらにそれ以前の馬・船・鉄道といった交通機関とも不可分であるということを本書を通じて深く認識させられた次第です。

分量の面でも、読みやすさの面でも、本書はアメリカにおける放送の歴史を要点を捉えて把握するにはもってこいの一冊だと思います。ご興味のある方は是非読んでみて下さい。