年納めドキュメンタリー映画鑑賞記

あけましておめでとうございます。2021年最初のフィールドレビューは、博士課程の森田がお届けします。コロナ禍の年末年始となりましたが、皆さんはどのように過ごされたでしょうか?私は、いくつか気になるドキュメンタリー映画が年内で上映終了だったため、しっかり感染対策をして鑑賞してきました。今回はそのうち2作品を紹介したいと思います。

1本目は、セルゲイ・ロヅニツァの『国葬』(2019)です。この作品は、かつてソ連の独裁政権を率いたスターリンが1953年に死去した際の大葬儀を撮影したフッテージから構成されており、ロヅニツァの得意とする「アーカイヴァル映画」=アーカイヴ映像素材を用いて作られた映画の一つと銘打たれています。私は今回はじめてロヅニツァ作品を見たのですが、まず何より70年近く前とは思えないような鮮明な記録映像に驚きました。そして過去の出来事にもかかわらず、現在の視点からの説明がほとんどなく、ひたすら当時の政治家たちとソ連市民の弔問が続くという展開に、眩暈を覚えるような不思議な感覚に陥りました。今回が日本初公開となったロヅニツァですが、すでに20本以上のドキュメンタリーを手がけていて国際映画祭の常連作家です。世界には日本でなかなか見る機会のない個性的な作品がいくらでもある、という事実をあらためて噛みしめました。

2本目は、小森はるかの『空に聞く』(2019)です。小森は東日本大震災を機に東京芸大の仲間だった瀬尾夏美とともに岩手県陸前高田市に移り住み、被災地の人々の暮らしや語りを記録する活動に取り組んでいて、ドキュメンタリー映画やインスタレーションを発表しています。前作の『息の跡』(2017)では、植物の「たね屋」を営みながら独学の英語や中国語で被災経験の手記を発行する佐藤貞一さんにフォーカスしていましたが、今回の主人公は「陸前高田災害FM」の人気パーソナリティだった阿部裕美さんです。阿部さんは津波で実家と店舗を流され、お身内も亡くされていますが、作中ではそうした話題に直接触れずに、ラジオを放送したりレストランを再開したりする現在進行形の彼女を静かに見つめていきます。前作に続いて、けして「被害者」としてではなく、その土地に根を下ろして活動を重ねていく個人としての記録に徹している眼差しが、小森作品の特質であると実感しました。

テーマも製作規模もまったく異なる2作品ですが、それぞれに刺激的な発見があり、ドキュメンタリーの奥深さを再確認できた年末となりました。こうした最新の映画を暗闇と大スクリーンで味わうことのできる映画館は、やはり私にとって大切な存在です。現在、東京では緊急事態宣言が発令されており、映画館の運営もさらに厳しくなると予想されますが、この貴重な文化発信地を失うことのないように可能な形で応援していきたいです。