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映画『Quiz Show』

作者: Osawa Hitomi | 2014年5月27日Posted in: フィールドレビュー

こんばんは、修士1年の大澤が今週のフィールドレビューを担当します。入学してから早2ヶ月が経ちました。最近「そもそも、なぜ私はメディア研究にいきついたのか」と考えさせられる機会がありました。今回は「初心を振り返ろう」というテーマで、私が高校時代に影響を受けた授業の一例を紹介します。今週末は学際情報学府の入試説明会も開催されるので、学府・丹羽研に入りたいと希望されている方のお役にも立てれば嬉しいです。

遡ること、数年前。高校3年生の私は悩んだ末、「社会学部メディア学科」を大学の専攻として選びました。決定打となったのは、学生生活で得た経験です(高校生なら当たり前かもしれませんが)。

まず、鮮烈に記憶に残っているのが、英語の授業で観た『Quiz Show』(1994年公開)。実話をもとに、ある人気クイズ番組で起きた「やらせ」事件を巡る物語が描かれている作品です。舞台は、1950年代のアメリカ。主人公である、番組チャンピオンのステンペルは、スポンサーからの支持を得ることができず、彼が原因で番組の視聴率も低迷。そこで、番組プロデューサーは白人大学講師のヴァンドーレンを新チャンピオンとして迎えようと目論みます。

その手法として用いたのが、クイズの回答をヴァンドーレンに教え、ステンペルには金銭を渡し、手を引いてもらうことでした。初めは、両者ともに拒絶するのですが、最終的にはヴァンドーレンが新チャンピオンとして君臨します。番組の視聴率は上がり、ヴァンドーレンはスターとして人気を獲得します。そこへ、グッドウィン捜査官が番組の「やらせ」を暴こうと調査に乗り出すのでした。

結末は明かしませんが、この映画はテレビが多大な影響力を持っていた時代を理解するのに、もってこいの作品です。また、物語を通してテレビ業界の裏に潜む「やらせ行為」について考える機会を視聴者に与えてくれます。登場人物の一人である、番組プロデューサーのアルは劇中でこのような台詞を残します。「It's not like we're hardened criminals here. We're in show business.(犯罪を犯したわけじゃない。俺らはショービズの世界の人間だ。)」この主張を聞いた高校生の私は、「妥当な意見だ」と納得しました。

昨今の日本でも、「やらせ」の騒動がメディアで報道される度に、私たち視聴者は、テレビを娯楽の一環として受け止め、画面に記される全てを鵜呑みにしない「かしこさ」が求められている様に感じます。先ほどのプロデューサー・アルが述べたように、本来、テレビは楽しむために視聴するもの。アイドル的存在のクイズ王が誕生し、視聴者が彼を応援するために番組を観るのであれば、やらせだろうがなかろうが、そこが問題ではないのでしょう。

また、同作品は「やらせ行為」やメディア業界の問題点以外にも、多くの課題を提示しています。作中では、登場人物それぞれの家族構成にも焦点が当たるのですが、特に、新チャンピオン・ヴァンドーレンの一族は由緒正しい家柄として描かれています。ヴァンドーレンが父親へクイズ番組のやらせに加担していた事実を伝えると、「Your name is mine!(お前の名は私の名)」と叫び、家の名を汚した息子をひどく非難するシーンの他にも、ヴァンドーレン一族が会食の席では詩を読み、クイズ番組や漫画を「お遊び」と評する場面から、いわゆるエリート層の家柄だということがわかります。世間ではスター扱いされているヴァンドーレンも、家庭内では別次元の階級社会で苦悩している様子が伺えます。

このように人種、階級、学歴、容姿等、社会全体の在り方にも疑問を抱かされます(きっとだから授業で取り扱われたのでしょう)。これらの問題点を「クイズ番組のやらせを暴く」物語の中で、人間関係を通して垣間みることができます。これを読んでいる方で、もしまだ観たことがなければ、是非一度ご覧ください。

最後に、Walter Lippmannの『Public Opinion』(1922, Macmillan)という一冊を紹介して終わりにします。この本は、高校時代に書店で偶然出会った一冊で、初めて自分で手に入れたメディアの学術本だと記憶しています。最初に目を通した時は、内容がさっぱり理解できず、その後も本棚の奥に眠ったままになっていたこの本。

ですが、大学入学後、再びページを開く機会が訪れました。徐々に本を読み解き、少しずつ内容も把握できるようになった私。もちろん、「世論」をテーマにした本の中身も、メディア学について何も知らなかった私に様々な問題を教えてくれましたが、この本を自力で読解した経緯自体に、私がメディアについて研究しよう、と考えるようになった原点があります。日々のちょっとした積み重ねが、自分の「知識の引き出し」を増やすということを、この一冊が教えてくれたのでした。

publicopinion