騒がしい場所としての映画館

今回のフィールドレビューはM2の山中が担当させていただきます。さて、唐突ですが、電車のなかで電話をしているひと、たまに見かけますよね。

いま電車だから・・・と言って切ればいいものを、「もしもし、あのね・・・」なんて話し出すことも。まったくマナーってものを知らんのか!と憤りたくもなります。

しかし、どうして電車での通話がマナー違反なのか。うるさいから?いやいや、そうすると隣の人との会話もマナー違反になってしまう。心臓ペースメーカーを誤作動させるから?いやいや、携帯の電波は通話中だけ出ているわけではないらしいので、通話のマナー違反とは直接はつながらない。どうやら、電車での通話がマナー違反というのは、はっきりした理由があってのことではないらしい。

ところで、私はコミュニティシネマの研究をしています。コミュニティシネマの定義を話しているときりがないので、ここでは地方にある小さな映画館とでも言っておきましょう。

正直なところ、私はこれまであまり映画館に通うほうではなく、行くとしても大型ショッピングセンターのなかにあるシネコンでした。しかし、そこにもたまにいるんですね。映画が始まっているというのにおしゃべりをしている人。場内を駆けまわるこども。せっかくの非日常を一気に日常に引き戻すような光景。「まったくマナーってものを知らんのか!」とここでも憤りを覚えていました。

この「上映中はお静かに」というマナーですが、これもどうやら自明のものではないらしい。

私の研究の場である埼玉県深谷市では、深谷シネマというコミュニティシネマが2002年にできるまで、およそ30年もまちに映画館がなかったので、市民の手によって上映会が行われたことがありました。商店街の空き店舗にパイプ椅子を50個ほど並べた即席映画館で、往年の名作「愛染かつら」が上映されました。何十年も待ちわびた映画に、町中からおじいちゃんおばあちゃんが集まってきたそうです。

しかし、映画会社から借りた16ミリフィルムは劣化しており、なんと途中で切れてしまう!真っ暗になったスクリーンを前に、上映技師さんは凍りついたでしょう。

そんな中で、観客からは拍手と歓声。「いやぁ、昔の映画はこうだったよ」と。

映中には劇中歌にあわせて歌うひとびと。そこには「上映中はお静かに」のマナーはありません。そのかわり、「映画と観客のみなさんが一緒に呼吸していた」と、深谷シネマの館長は言います。

映画学者の加藤幹郎は、『映画館と観客の文化史』(2006、中央公論新社)のなかで、映画館が「静かに映画を観る」ための場所になったのは近年になってからだと述べています。むしろ初期の映画館は、映写する歌詞に合わせて観客が大合唱することもあったそう。なんとも楽しそうですね。そう考えると、映画館で騒がしい客と出くわしても、そんな楽しみ方もあるよねと温かい気持ちで見守れましょうか。

とはいえ僕なぞはつい、「まったくマナーってものを・・・」と思ってしまうのですが。

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<現在の深谷シネマ外観>