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ふたたび国際学会に行ってきました

作者: Watanabe Chihiro | 2019年1月28日Posted in: フィールドレビュー

今回のフィールドレビューは、修士2年の渡辺千弘が担当します。昨年に引き続き、ヘイトスピーチに関する国際学会に行ってきました。

昨年は京都にある立命館大学のキャンパスで二日間にわたって実施された学会は今回が2回目で、パリにあるディドロ大学(パリ第7大学)での実施となり、規模も三日間と少し大きくなっていました。ヘイトスピーチに関する様々な事例を世界中の報告者から募るというポイント、そして、Hate Studiesなどが発達しているアメリカが中心ではなく、ヨーロッパの他にアジアやインドといった様々な場所からの参加者が特徴的である部分は前回同様、あるいはそれ以上に多様性があり非常に興味深かったのですが、僕にとって個人的に何より大きかったのは、前回とは異なり今回が日本国外で参加する初めての国際学会、という点でした。折しもパリからは「黄色いベスト運動」のニュースが連日届いており、そして自分のスケジュールに関して言えば、修士論文の執筆&提出と時期が丸被り...。

前途多難な状況は火を見るよりも明らかだったのですが、そこは好奇心が勝り、はっきりとした勝算も無いままいそいそと参加を決めました。結果的に年末年始は文字通り寝る間も無く、絵に描いたような悲惨な状況を経験する羽目に陥ったのですが、何とか修士論文の提出を終え、徹夜明けの朦朧とした頭で一路、花の都パリへと向かいました。


会場の様子

今回の発表は、同時並行で執筆していた修士論文の一部を題材に、研究テーマであるヘイト本について話したのですが、ヘイトスピーチの学会ということで、やはり周りの発表は法学や社会学といった分野が多く、そうした中で出版研究に軸足を置いた僕はやや異色の存在だったようです。その一方で、近接する様々な領域の発表を聞きながら既に提出を済ませた修士論文のことを思い出し、「このテーマにはこんな視点があったのか...」「この文献を押さえていなかったのはマズかったかな...」「そもそも一年の間に英語力を磨いておけばよかったな...(発表が聞き取れない...)」などと、今となってはどうしようもない後悔ばかりが脳裏で渦巻きます。そうして続くセッション間の会食や休憩時間では、僕がボソボソと英単語を呟く間に会話はどんどん先へと進んで行ってしまい、思わず日本語でベラベラと喋り出すと、不思議そうな視線を一身に集めることになります。

そんなこんなで、自分の後悔に次ぐ後悔も然ることながら、発表テーマもアイデンティティも、そして物事の感じ方も含めて様々な、まさしく多様性を肌で感じるような機会は本当に貴重でした。今回の学会では、「そもそもHateの定義とは?」という議論も大いに盛り上がったのですが、いわゆる人種や民族のみならず、ジェンダーやフォビアといった様々な差別も議論の俎上に載り、そのこともまた、いわゆる既成のHate Studiesなどの枠組みに縛られずに発表者を募ったこの学会を特徴づけているようで、大いに刺激を受けた三日間となりました。


ホテルの部屋でひとり打上げ

さて、肝心の「日本国外」という部分についてはどうだったのかと言うと...。意外なほど、それで困ったことは無かった、というのが率直な感想です。京都では、英語が共通言語となる学会会場のみが僕にとっては異空間で、外に出れば日本語に溢れた日常がある。言うなれば、会場には一応、酸素はあるけれど人間には殆ど吸収できない海中のようなもので、外に出て酸素濃度の高い空気をすえなければ死んでしまう。そんな気分だったのですが、いざフランスに行ってみると最早、会場の内外は関係なく、仕方なくエラ呼吸をしているうちにその状況に慣れてきた、というような感じでしょうか...。

そんな非日常から再び日本に戻った今、今度は修士論文の口頭審査、という新たな難関が眼前に立ちはだかっています。勿論、日本語での審査となる今度はもう「英語は不得意だから...」などという言い訳は通用しません。修士課程の間に吸収したことを、今度こそ1mmの後悔も無いように、如何なくぶつけたいと思っています。


「黄色いベスト運動」をついでに見てきました